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2013年4月12日 (金)

【プロデューサーの本棚】ワイドレンズ: 成功できなかったイノベーションの死角

4492502459 ロン アドナー(清水 勝彦訳)「ワイドレンズ: 成功できなかったイノベーションの死角」東洋経済新報社(2013)

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久しぶりにイノベーションマネジメントで興奮する本を読んだ。本書は、画期的な製品開発が成功しないケースのある理由として、エコシステム(生態 系)を無視していることにあるとし、その回避のためのツール「ワイドレンズ」を示している。この本で説明されているいくつかのケースは、クリステンセン博 士の「イノベーションのジレンマ」に出てくるハードディスクのケースくらいのインパクトがあった。

ワイドレンズの必要性を示すために、ミシュランのPAXというタイヤの開発事例を紹介している。1990年代にミシュランがパンクとパンクによっ て引き起こされる事故のリスクを低減できるPAXというタイヤを開発した。通常のタイヤは空気圧でホイールを所定の位置に固定していたが、PAXはホイー ルを物理的にタイヤに固定した。ゆえに、空気圧が下がっても、タイヤは内部サポートリングでリムにつながったままで、パンク時には、従来の自助式タイヤの 倍以上の走行ができ、また、乗り心地、燃費も悪くならないという画期的な商品だった。これによって、スペアタイヤが不要になることは、自動車メーカにデザ イン上の大きなベネフィットを与える。

このタイヤを装着するためには、自動車側にモニターが必要であり、コントロールシステムも必要に な る。ミシュランは製品メーカーからインテグレータへ変身し、PAXに必要な部品を開発し、この難題に取り組んだ。そして、メルセデス、シボレー、ルノー、 アウディ、ホンダなどと提携し、商品化をしていった。また、ディーラーとの提携も必要だった。PAXをオプションとして販売する可能性があるからだが、こ の課題もクリアした。

ここまで、ミシュランは不可能にも思えた技術開発に成功し、そして、自動車メーカとの提携、ディーラーとの提携なども成功した。タイヤのイノベーションとしてミシュランの活動は完璧だった。

し かし、PAXは失敗した。それは修理工場を見落としたからだ。従来のタイヤの新商品では、修理工場は既存の設備や技術で対応できた。ところが、PAXの場 合は、新しい設備、新しい技術が必要であったにもかかわらず、ミシュランはその対応を怠ったためだ。このため、PAXは修理ができず、国によっては訴訟沙 汰になった。

このように新しいタイヤように、新製品を開発するということは、新しいシステムを構築することを意味する製品が増えている (これはエコシステム(生態系)と呼ばれる)。エコ・システムのどこかが欠けてもその生態系は成立せず、イノベーションは失敗に終わる。逆にいえば、生態 系のイノベーションこそが必要なのだ。

エコ・システムのイノベーションをスムーズに進めるツールとして、本書ではワイドレンズというコンセプトと提案している。

ワ イドレンズでは、まず、価値設計図を描くことから始める。価値設計図により計画に組み込まれている誰と誰がつながり、誰が誰に依存しているかが明確にな る。それによって、エコシステムとしての提供価値が何か、そしてそれをどのように提供するかということを明確にし、共有できる。

そし て、 エコシステムに隠れたコーイノベーションリスク、アダプションチェーンリスクが明らかになる。コーイノベーションリスクは、自身のイノベーションの成功は 他のイノベーションの成功に依存するというリスクで、アダプションチェーンリスクは、パートナーがまずイノベーションを受け入れなければ、顧客が最終提供 価値を評価することすらできないリスクである。ミシュランのケースは双方のリスクが失敗の要因になっている。

この2つのリスクを明確にすることによって、実情に合致しない仮定と欠けている要素が表面化し、どのような役割が必要か、どのようなタイミングが適切か、そして競争優位を獲得するためのアプローチはどのようにすべきかが見えてくる。

次 のステップとして、設計図を明確にしたら、次はどの役割を果たしたいか、いつ実行に移したいかを自分自身に問いかける。その際に役立つのが、リターンの配 分が評価でき、エコシステムのリーダーの候補が誰で、自身の立場も確認できるリーダーシッププリズムが役立つ。自身の立場については、電子カルテのイノ ベーションで説明している。このケースもたいへん、面白いケースだ。

また、相互依存の構造が先行者に有利かどうか、競争が始まってからスタートラインで先行者を抑えるのがよいかどうかを確認することにより理想的なタイミングを決定できる先行者マトリクスを使う。

こ の流れについては、典型的な事例がアップルのiPodであるとし、iPodの事例を詳細に分析しながら、エコシステムのイノベーションのタイミングについ て論じている。この分析がこれまでに読んだアップルの成功をもっとも適切に説明しているように思えた。ウォークマンは製品のイノベーションであったが、 iPodはエコシステムイノベーションだったのだ。

そして、エコシステム再構築の5つのレバーを使って、設計図をいろいろと考えることにより、エコシステムの制約条件を踏まえながら、完全な価値提案をできる計画を創り上げていく。5つのレバーは

・分離
・結合
・再配置
・追加
・削除

の5つである。

この一連の流れを、ベタープレイスの事例に基づいて説明している。

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