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2012年7月12日 (木)

毎日の小さな実践が大きな変革を起こす

4478016747ダグラス・コナン、メッテ・ノルガード(有賀 裕子訳)「リーダーの本当の仕事とは何か――わずかな瞬間で相手の抱える問題を解決する3つのステップ」、ダイヤモンド社(2012)

お奨め度:★★★★★+α

米国大手食品メーカー、キャンベルスープのCEOとして、急降下していた業績と従業員のやる気を回復させ大きく成長させた評判の著者が、自ら実践して鮮やかな効果をあげた「タッチポイント流リーダーシップ」の本質を語った1冊。


リーダーがリーダーシップを発揮する場面を作るのは、意外に難しい。理由は2つある。一つは物理的に接する人たちが限られていること。そして、より本質的な理由は、リーダー、特にトップリーダーは業績を上げるために必要な割り込みへの対応に多くの時間を割かれ、なかなか、まとまった時間が取れないことだ。ここでいう割り込みとは、本来の仕事だと多くのリーダーが考えている、戦略立案、プラニング、優先順位づけなどの仕事への割り込みのことだ。

タッチポイントとはこのようなリーダーの実情を逆手にとり、割り込みなどで発生する細かなメンバーとの接触機会を通じて、リーダーシップを発揮しようという発想のリーダーシップである。

タッチポイントには、必ず、

・相手
・テーマ
・リーダー

という3つの要素がある。タッチポイントで主導権を握るには、最も切迫したニーズに対処し、その対処を通じて相手の能力を高め、次のテーマに挑戦できるようにすることが必要である。

テーマには、3つある。自分のテーマ、相手のテーマ、みんなのテーマである。自分のテーマでは問題に先手を打つ。タッチポイントは、早め早めに察知し、自分と接触する機会をみんなにもたらし、職場の雰囲気づくりをし、いくつもの問題を芽のうちに摘み取れるというメリットがある。

相手のテーマは、まず一人一人の考えをしっかりと聞く。タッチポイントのより、一人一人に何をすべきかを聞き、そののちに自分の意見を伝える。それにより、目の前の仕事を成し遂げるだけではなく、次の仕事ではもっと成果を上げることができるようになる。

みんなのテーマでは、リーダーも責任を負う。

タッチポイントにおいては、人にやさしく、テーマに厳しくというスタンスが重要である。テーマに厳しくするには、たとえば、目標に焦点を当て、要求水準を決め、切迫感を生み出し、粘り強さを発揮し、競争に勝ち抜こうとする。人にやさしくするには、たとえば、方向性といくつかの指針を示して部下の資質や熱意を引き出し、自分はかたわから見守ろうとする。この2つを両立できることが重要である。

リーダーは責任が大きくなると、不確実性が大きくなり、より優れた手腕を求められる。だから、「進歩」が必要である。

進歩の基本は、「知恵」、「ハート」、「技能」の3つである。つまり、

・人材と変革を率いる上での指針となる論理的モデル(知恵)
・明確な目的意識や他人と誠実にかかわる方法(ハード)
・大切な瞬間への備えをして手腕を発揮するための実践法(技能)

の3つが必要だ。これらのいずれが欠けても、目標を達成することができなくなる。

タッチポイントで効果的にリーダーシップを発揮するには、リーダーシップモデルを持つことが重要である。タッチポイントでリーダーがより明確な考えを示せば、相手はリーダーがどうテーマに取り組むのか、どのように指示を出すのかを予想できる。これによって、相手は自律性を高め、リーダーは時間を増やすことができる。

リーダーシップモデルを作るには、まず、前提を明確にする。ここでいう前提は価値感である。そして、

・人々が全力を尽くそうとするのはなぜか
・変化の絶えない世の中で成果を向上させていくにはどうすればよいか

を考えてみるとよい。あるいは、最高の思想に学んだり、自分の経験について考えたりする。

このようにして準備を終えたら、本番に入る。本番では

・自分の知見について考える
・素案を作る
・先輩などにプレゼンをする

といった手順でモデルを作っていく。重要なことはモデルを作ることではなく、実行をすることだ。このことを忘れてはならない。

タッチポイントを有効にするには、ハートもまた、重要である。ハートについては、以下の3つの問いに答えてみるとよい。

・なぜ、リーダーの道を選ぶのか
・自分の掟は何か
・有言実行がどれだけできているか

タッチポイントは、現場に密着している。したがって、そこではリーダーはタッチポイントに向き合うだけではなく、手腕を発揮することが求められる。そのために欠かせないのが技能の鍛錬である。

タッチポイントの本質はコミュニケーションである。その瞬間にどんな話題をぶつけられても、相手の話を理解し、しかも自分の話を相手に理解してもらえるう、途方もなく技能を備えていなくてはならない。

その上で、人間関係を構築し、自己表明をすることが必要だ。

タッチポイントのコミュニケーションの中で重要なのは、聞くことによってリーダーシップを発揮することだ。話を聞くには

・頭で聞く
・ハートで聞く
・波及効果を意識して相手の話を聞く

などの技能が必要であるとともに、足りないところは話し合いで補う技能も求められる。話し合いにおいては、

・明快に語りかける
・ハートで語りかける
・波及効果を意識して話す

などの技能が必要だ。

タッチポイントにおけるリーダーシップでもっとも重要なのは、自分ではなく相手だ。そこを踏まえて、タッチポイントは

ステップ1:相手の話をじっと聞く
ステップ2:テーマの大枠をつかむ
ステップ3:課題を前に進める

の3ステップで行う。そして、タッチポイントを効果的にするには4A、つまり

神経を研ぎ澄まし(Alert)、豊かな(abundant)、本物の(authentic)、順応性(adaptable)がある

という条件を満たしながら相手とかかわっていく。

久しぶりに役立ちそうなリーダーシップ論に出会った。タッチポイントで接点を作り、持論に基づくリーダーシップを発揮する。これは、僕が知る限り、もっとも現実的なリーダーシップ論だと思う。

トップリーダーを念頭においているが、同時に、タッチポイントという考え方は、大規模なプロジェクトのマネジメントに最適だと思われる。ぜひ、試してみてほしい。

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