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2012年7月10日 (火)

シンプルという哲学

4140815450ケン・シーガル(林 信行監修・解説、高橋 則明訳)「Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学」、NHK出版(2012)

紙版><Kindle版

お奨め度:★★★★★+α

facebookページ:「「シンプル」に忠誠を尽し、複雑さと戦う

アップルの「Think Different」キャンペーンにたずさわり、iMacを命名した伝説のクリエイティブ・ディレクターであるケン・シーガルが初めて明かす、ビジネスとクリエイティブにおける「シンプル」という哲学。多数あるアップル本、ジョブズ本とは一線を画しているのは、ケン・シーガルのデルなど他の企業における経験の紹介がスパイスのように効いている点だ。



本書は、

「人間はシンプルを好む」

という事実に基づくものである。つまり、「選択肢が与えられたとき、正常な人は複雑な道より、シンプルな道を選ぶ」。しかし、複雑さは強力で、魅惑的である。したがって、複雑さと戦わなくてはならない。

ジョブズはiPhoneを世に出す2年前にビジネスウィークのインタビューで以下のように述べている。

ある問題を解決しようとして、最初に考え出した解決策がとても複雑だったとしよう。ほとんどの人はそこで考えるのをやめてしまう。だが、そこでやめずに考え続けて、タマネギの変わりむくようにムダなものをそぎ落としていくと、とても洗練されたシンプルな解決策にたどり着くことがよくある。

ジョブズにとって戦うとはそういうことなのだ。

戦うために、シンプルさのコアな要素が浮かび上がってきた。コアな要素は、アップルの専売特許ではなく、誰でも実践できるものだ。

この本は、この10個の要素について一つずつ焦点を当て、ジョブズやアップルがどのようにコミットしていたかを説明していく。その10個とは

Think Brutal 容赦なく伝える
Think Small 少人数で取り組む
Think Minimal ミニマルに徹する
Think Motion 動かし続ける
Think Iconic イメージを利用する
Think Phrasal フレーズを決める
Think Casual カジュアルに話し合う
Think Human 人間を中心にする
Think Skeptic 不可能を疑う
Think War 戦いを挑む

である。本書はそれぞれについて、ジョブズのエピソードを紹介しながら、それぞれがどのような原則なのかを説明している。

(1)容赦なく伝える

残酷なまでに率直さをぶつける。真実を隠すのはやめよう。そして、一緒に仕事をする人にも同じことを求める。真実を確認しないままでプロジェクトを進めてしまうと、その瞬間に複雑さが入り込んできて、プロジェクトをダメにしていく。

アップルでは自分がいまどこに立っていて、何が目標で、いつまでにする必要があるのかがはっきり分かる。そういう結果が失敗を意味するのかも分かる。お互いの真意が分かれば、もっと仕事に集中でき、前向きにも、生産的にもなる。明快さは組織を前進させるのだ。

(2)小人数で取り組む

「考えるときは大きく、それ以外は小さく」

これがジョブズ流であり、アップル流である。シンプルであるためには、有能な小人数のグループから始め、その規模を守ることだ。これは、アップルのシンプルさの信仰に深く、組み込まれている。どんな組織であれ、質の高い思考を保つには欠かせない原則である。

この原則は、会議にもプロジェクトにも当てはまる。会議であれば、その会議に集まっている人は、会議にとって重要な人であること。見物人など要らない。

会議ではガイドラインであってもプロジェクトでは必須である。多くのビジネスが、重要なプロジェクトほど多くの人を投入すべきだと思っているが、これは大きな間違いだ。たとえば、Macのチームは100人を超えないようにしている。誰かを入れるときには、誰かを外す。

プロジェクトに関しては以下のような法則が成り立つ。

・プロジェクトの成果の質はそこに関わる人間の多さに反比例する
・プロジェクトの成果の質は最終的な意思決定者が関わる程度に比例する

この法則のためには、少人数であることが不可欠だ。

(3)ミニマルに徹する

アップルストアにいくと、アップルの物事を極限までミニマルにする能力がよく分かる。そこは、売り場として極限までシンプルで、ユーザが買うための商品があるだけだ。関係のないものはすべてそぎ落とされている。

ジョブズがアップルに復帰して、アップルと立て直すときに、アップルの製品戦略を四分割された四角形で表した。ノートとデスクトップ、そして消費者向けとプロ向けである。この四角形に入らない製品はすべて捨て去り、この四角形を埋めていく商品を開発した。その後、iMac以外にもiPod、iPhone、iPadなどがラインナップに加わるが、すべてのこの四角形に収まるもので、シンプルな製品戦略を維持している。

ここには一つの原則がある。「あらゆる人を喜ばせようとすると、誰も満足させられない」という原則だ。たとえば、iPadをコンピュータとしてみれば、足らないものだらけだ。アップルは足し算をせず、引き算をする。そして、顧客はその引き算に魅力を感じる。

この原則は製品だけではなく、コミュニケーションでも実践されている。一つのアイデアを与えればうなづくが、5つのアイデアを与えると頭を抱え、忘れていく。だから、一つのアイデアを与える。

(4)動かし続ける

シンプルさは状況に応じて行動することを好む。アップルのプロジェクトは、以下の4つの要素が考慮されている。

・計画
・充分でない時間
・現実的な高い目標
・動くのをやめないこと

最後の点においてはプロジェクトの初日から動くことを求められる。動かすことによってのみ、適切な集中力を保てる。

(5)イメージを利用する

アイデアやアイデアの精神を象徴するイメージを使うことで、自分の考えを具現化する。そのためには、アイデアの本質を表しているイメージを見つけることが必要だ。

それはシンプルで力強いものがよい。

(6)フレーズを決める

相手がだれであっても、自然に振る舞えば効果的なコミュニケーションを取ることができる。シンプルなセンテンスで、シンプルな言葉を使おう。シンプルさはそれ自体が賢さであり、少ししか語らないことで、多くを語ることができる。

この原則は、製品のネーミングのときにも当てはまる。

(7)カジュアルに話し合う

大企業ではなく、ヒエラルキーの少ないスタートアップ企業のように運営すれば、社員はより生産的になれる。それが会社を大きくすることにつながら。型どおりの会議やプレゼンは、情報を伝えることはできても、相手を刺激することはできない。

せめて、社内の打ち合わせや顧客との日常的な打ち合わせは、カジュアルなものにする。それが、創造的で素晴らしいアイデアを生み出す。

(8)人間を中心にする

ジョブズの関心は、人が結びついた会社から、感情的なレベルで結びつく会社を目指すようになった。この10年、アップル流のシンプルさは人間性とますます調和してきている。アップルの発明品は、ただの機能にすぎないモノを超越し、欲望の対象になっている。

iPodにおける複雑さを取り除くことは、人間をより音楽に近づけた。iPhoneにおけるタッチパネルと直感的なインタフェースは、ユーザを人間として扱っているように思えた。そして、Siriはさらなる人間性を加えた。

イノベーションにおいてもジョブズは、人間が廊下で出会うような幸運なアクシデントによって起こると考えている。そのために、アクシデントを起こす場を大切にしている。

ジョブズの人間性重視は、アップルの追放などの3つの経験によってもたらされている。ジョブズは物事を正しく見ることができ、人間性を失うことのない人物になった。

(9)不可能を疑う

プロジェクトにおいてノーという言葉がよく出てくる。しかし、本当にできないことは1000のうちの数個であり、あとは、非常に努力が必要だとか、いつものやり方ではできないか、とてもコストがかかるといったことに過ぎない。

ジョブズは不可能を疑う。そのよい例が、アップルストアである。アップルストアを展開する際に、チャネルの人たちは絶対にうまく行かないと指摘した。しかし、現実には、全世界で350店以上を展開し、ディズニーランドの4大テーマパークより多くの人を集めている。

ジョブズはよい場所に店をだせば、製品による経験を求めたのと同様に、購買体験を求めるという確信を持っていたのだ。

(10)戦いを挑む

シンプルであり続けるには、非常時には戦う必要がある。その際、重要なことは、自分のアイデアに対する情熱が何よりの武器になることだ。

間違ってもフェアな戦いをしようとは思ってはならない。あらゆる武器を使って、勝つことが重要なのだ。

iMacを世に出したときに、インテルのCPUよりは早いというメッセージを出した。必ずしも正しくない。インテルから訴えられるかもしれないと思っていた。しかし、訴えられてもiMacの名前が世にしれれば、ミッションは達成だと考えていた。結果として、インテルは自社のホームページで訂正をしただけで、訴えることはなかった。

ジョブズの本は、伝記も含めて山ほどある。その中で、この本ほど、示唆に富む本はない。なぜ、シンプルになれないのか、シンプルになるのはどうすればよいのかを非常に具体的に教えてくれる。もちろん、そこにはジョブズのエピソードがある。

一粒で二度おいしい本だ。

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