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2012年5月21日 (月)

カイゼンとイノベーションのサイクルマネジメント

4492521933井上潤吾「守りつつ攻める企業 ―BCG流「攻守のサイクル」マネジメント」、東洋経済新報社(2011)

お奨め度:★★★★★

イノベーションマネジメントの入門書としてぜひ読んで欲しい本。BCG(ボストンコンサルティンググループ)に所属する著者がBCG流のフレームワークをベースに、一般的に書いているので、ツールがなくても使えるフレームワーク。



◆「守り」と「攻め」のサイクル

イノベーションマネジメントの本は結構な数がある。それはイノベーションの起こし方として、アイデアの生み出し方、育て方、商品化、展開などについて述べたものである。つまり、イノベーションをマネジメントする方法である。

しかし、よく考えてみると、イノベーションのもっとも難しい問題が、従来の商品や事業とイノベーションへの資源配分であることからも分かるように、「マネジメント」とは単にイノベーションを起こせばよいというものではなく、従来のものをどのように扱うかを含んだものでなくてはならない。

この本は、この点において、事業のライフサイクルにおいて、「守り」と「攻め」を意識し、攻めから守り、守りから攻めへの変曲点のマネジメントとして、カイゼンとイノベーションが必要であることを述べている。著者の考えるサイクルでは、攻めにおいては、市場を動かすことが重要で、

(1)隙間をこじあけ、成長の機会を発掘する
(2)初期の成長を継続させる
(3)儲けに走らずさらなるシェア拡大、他事業領域への参入により成長する

といったプロセスを行い、守りの準備に入る。そして、守りに入ったら

(1)時間を稼ぐ
(2)顧客との関係を強化する
(3)共食いを恐れず、さらなる低価格で新しいサービスを顧客に提供する
(4)経営トップ自らが企業文化を再定義する

といったプロセスを実行し、攻めの準備に入る。

攻めから守りに転じるときに重要なのは、タイミングと攻めから守りにあたってどういう課題があるかの総点検である。3C、バリューチェーン、組織、プロセス、人材企業文化などの視点からの課題を総点検する。そして、課題を一つずつ、解決して、万全の守りができるようにしていく。これはカイゼンである。

守りから攻めに転じるときに重要なのは、「意識改革」と「リスクテイク」である。つまり、どこかで一気呵成に変革をしなくてはならない。この一気呵成の変革がイノベーションである。

本書では、このような前提で、守りの本質と攻めの本質を示すことにより、このサイクルにおけるカイゼンとイノベーションの進め方を示している。


◆守りの本質としてのイノベーションの本質

守りの本質は「やるべきことを徹底してやる」ことだ。守りに徹しないと、攻めで確立した競争優位性が劣化し、シェアを落としていく。徹底的にやるにはカイゼンのPDCのサイクルで以下のようなポインを押さえておくとよい。

<全体>
・トップのリーダーシップが発揮されているか
・PCDのフィードバックループが機能しているか

<計画>
・顧客の視点で考えているか
・目標、プロセス、責任者、体制、施策が明確か

<実行>
・走りながら修正していける柔軟性を有しているか
・メンバーは自発的に動いているか

<チェック>
・プロセス指標が埋め込まれ、進捗状況を容易に把握できる仕掛けがあるか
・課題の指摘だけでなく解決策の策定に力を注いでいるか
・課題解決のための異なる部門でも喜んで協力する体制ができているか

の9つだ。


◆攻めの本質としてのイノベーションの方法

攻めの本質はイノベーションの方法である。それには、「原石の見つけ方」と「原石の磨き方」である。

原石の見つけ方は、BCG流の方法で、一方でメガトレンドから、イノベーションのネタを探す一方で、自社の技術資産からもイノベーションのネタを探す。そして、事業機会を見つける段階で、2つを統合するというフレームワークである。

また、技術資産については、自社技術にこだわらず、オープンイノベーションがこれからは重要になってくるという指摘とともに、現在の状況と要点を説明している。オープンイノベーションの要点は

・脱自前主義への意識改革
・社内外連携のインタフェース設計
・社内技術の融合

の3点であると指摘している。

良い攻めのきっかけになるイノベーションには2つのタイプがある。一つは、価格破壊型のイノベーション、もう一つは新市場創出型のイノベーションである。前者には、タタ自動車、サイゼリアなどの例があげられている。後者には、ウォークマン、携帯電話、青山フラワーマーケット、ガリバーインターナショナルなどの例を挙げている。


◆個人と組織のイノベーションへの取り組み

では、よい攻めにするには、個人はどのような攻めをすればよいか。3つの段階がある。

第1段階:技術や市場の変化をとらえて、革新的なアイデアを思いつく
第2段階:アイデアを実現し、ビジネスモデルを構築する
第3段階:事業化する

である。それぞれの段階で、思考法として重要なのは

第1段階:筋を追う
第2段階:妥協しない
第3段階:基軸を持つ

ことである。書籍では、それぞれについて例を挙げて説明している。

また、個人が創造力は

・身体の状態
・環境
・発想法
・累積時間

の掛け算であるとしている。また、イノベーション思考を実現するためにBCGで持っている

・デコンストラクション
・高速道路モデル
・シナリオプラニング

の簡単な説明をしている。

組織としては、イノベーションを引き起こすには、3つのロールが必要だと述べている。

(1)ゴッドファザー
必要な資源を提供するスポンサー
(2)指揮官
原石を理解し事業に結び付けることのできるリーダー
(3)チャンピオン
原石にのめりこむ

書かれていることは、BCGのノウハウを除くと、カイゼン、イノベーションともそんなに特別なことはないが、攻めと守りのサイクルというコンセプトとそのコンセプトに基づくフレームワークは素晴らしく、現実的である。

イノベーションマネジメントを行わなくてはならない立場にある人は、ぜひ、このコンセプトを取り入れてほしい。その意味で読んで欲しい一冊だ。

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