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2012年4月 3日 (火)

顧客やチームをインスパイアするリーダー(ファンが選ぶビジネス書2012-4)

4532317673サイモン・シネック(栗木 さつき訳)「WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う」、日本経済新聞出版社(2012)

お奨め度:★★★★

facebook記事:チームをインスパイアする

人をインスパイアすることをテーマに、リーダーシップのあり方を論じた一冊。視点は、WHYから始め、HOW、WHATと考えていくことだ。ジョブズに焦点を当てているわけでもなく、さまざまなリーダーの事例を引き合いに論じられていて、非常に納得性がある。


◆マニュピレートとインスパイア

人の行動に影響を及ぼす方法には、操作(マニュピレート)するか、鼓舞(インスパイア)するかの2つしかない。ビジネスの上では、価格を下げる、プロモーションを行う、恐怖心を利用する、周囲と同じ行動をとるように仲間集団から圧力をかけるといった操作は標準的な方法である。欠点は、忠誠心が芽生えることはなく、必要なコストが時間とともに上昇していくことである。

操作ではない方法に、インスパイアするという方法がある。操作ではなく、人を感激させてやるきを起こさせるリーダーは少ない。そのようなリーダーが、著者たちが「ゴールデンサークル」と呼ぶパターンに従っている。


◆ゴールデンサークルとは

ゴールデンサークルは円の中心から始まる。円は、外側から

WHAT>HOW>WHY

からなる。WHATは「していること」で、企業は組織はWHATはよく分かっている。HOWは自分のしていることの手法で、人や企業の中には、HOWをわかってる人もいる。WHYは自分がいましていることを、している理由だ。これを名言できる人や企業は少ない。WHYにはお金を稼ぐことは含まれないので留意しておいてほしい。

ビジネススクールでよく取り上げられる鉄道の話がある。1800年代の後半、鉄道は素晴らしい成功をおさめ、WHYを意識しなくなる。そして、「わが社は鉄道会社だ」とWHATにしがみついた。これが、意志決定に影響を及ぼし、20世紀後半になると、航空機の台頭により経営が立ち行かなくなってしまった。もし、鉄道会社が、WHYにこだわり続け、自分たちは大量輸送機関であると認識していたら、展開は全く変わっていたかもしれない。実は、米国の鉄道の話を初めて聞いたのは、ビジネススクールでコンセプトの話としてだった。この本では触れられていないが、コンセプトとWHYがどうかかわるかは興味深い。


◆ゴールデンサークルの整合

ゴールデンサークルは、整合を採りたいという欲求に従うものである。すべては、WHYを明確にするところから始まる。そのためには、自分のWHYが分かっていなくてはならない。つまり、自分自身の志や理念といった信条が分かっていなくてはならない。

WHYを明確にすることができたら、自分の信条を現実のものにするための手法、つまり、HOWが問題になる。それは、価値観でもある。私たちがものごとを行う手法は、ある組織や文化のシステムやプロセスに現れる。

そして、WHATはHOWの結果である。あなたがいうこと、することすべてがWHATである。終始一貫したWHATには「本物であること(アーセンティシティ)」が求められる。重要なことは、WHYが分からないのに、HOWは分からないというこだ。このことはよく心に留めておく必要がある。

ゴールデンサークルの整合が必要な理由は、信頼を構築することである。ゴールデンサークルの整合とは、明晰さ、厳しい指針、一貫性であり、それらを維持しなくては、企業の信頼は地に落ちる。


◆ゴールデンサークルと組織

ゴールデンサークルは単なるコミュニケーションのツールではない。ゴールデンサークルは組織に展開され、3次元になる。ピラミッド型組織において、

トップリーダー(CEO)-WHY
各部門の幹部-HOW
従業員の大半-WHAT

という関係にある。この意味の一つは、WHYを知る人は、HOWを知る人を必要とするということだ。WHYタイプは楽観的で想像したことはすべて実現可能だと考える。HOWはもっと現実的であり、構造や組織を作り上げ、プロセスを経て目標を達成するのが得意だ。WHYにはそのようなHOWタイプが必要なのだ。

組織のピラミッドはもう一つのシステムの上に載っている。それは市場だ。市場は、顧客、顧客になる可能性のある人、マスコミ、株主、競合、サプライヤー、金などでなりたっているが、混沌としており秩序がない。この市場との唯一の接点は、WHATなのだ。販売する製品、マーケティング、広告など、組織の言動はすべて外の世界に向けてリーダーのビジョンを伝える役割を果たす。だから、市場がWHATを買っていないのであれば、WHYを買っていることになる。その場合、WHATがWHYを明確に表していなければ、市場をインスパイアする能力がぐっと落ちる。


◆セロリ・テスト

その意味で、重要なのは、WHATやHOWではない。HOWとWHATがWHYと一致しているかどうかだ。どのような手法が向いているかを見分けるために、「セロリ・テスト」というテストがある。

ダイエット中のあなたはスーパーに買い物にいくとしよう。買い物かごに、セロリ、豆乳、クッキー、チョコレートなどをかごにいれ、レジに並んでいると周囲の人にはあなたが何を信じているのかわからない。ところが、WHYを理解していけば、豆乳とセロリだけを買うだろう。それによって、買い物のお金と時間を節約できる。それだけはない。買ったものはすべてあなたにとって価値のあるものになる。このようにWHY-HOW-WHATの整合をとるのが、セロリテストだ。


◆WHYとWHATの乖離を防ぐ

セロリテストに合格しても、時間とともに、WHYとWHATが乖離してくるケースがある。たとえば、アップルでは、ジョブズが離れた時期、WHYとWHATが乖離し、ジョブズの復帰によってまた、整合するようになった。

アップル以上に世界を変えたマイクロソフトでも同じような時期がある。ビル・ゲイツが経営を離れると、整合が取れなくなってきた。そして、ゲイツがたびたび顔を出すようになり、整合を取り戻すことができた。

ゴールデンサークルにおいて、実現された整合を如何に、継承できるかは大きな課題である。WHYがなくなると、WHATのみが残ってしまう。今、アップルが心配されているのは、まさにそういう状況なのだが、これから、どのようにジョブズのWHYが継承されていくかは興味深い。

ただ、一ついえることは、リーダーであるあなたがWHYに従えば、みんなはあなたに従うということだ。そして、組織はインスパイアされる。

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