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2011年5月14日 (土)

清水勝彦先生「戦略三部作」完結編

4822248453 清水 勝彦「戦略と実行―組織的コミュニケーションとは何か」、日経BP社 (2011)

お奨め度:★★★★★+α

清水勝彦先生が「戦略の原点」、「経営意思決定の原点」と並ぶ三部作の完結編と位置づける一冊。企業や事業部を上げて作った戦略がなぜ実行できないのかという問題について、そこに横たわる前提の問題を議論し、前提を変えることで戦略実行を確実にする方法を説く。もともと、現場的な視点のある清水先生の戦略論だが、その中でもまさに現場の話であるので、清水先生のファンの方には堪えられない一冊になるだろう。


◆気持ちが考えられていない

本書で清水先生がされている問題提起は、業績は戦略とその実行によってもたらされる。そして、卓越した戦略とその実行は分析とロジックによって実現される。しかし、ここに落とし穴があり、人間の気持ち(やる気)が影響を与えている。つまり、最重要戦略として策定した戦略が実行されず、業績が上がらないのは、分析やロジックにこだわり、感情が置き去りにされていることにあると指摘している。平たくいえば、戦略実行の現場の人たちが戦略が腹に落ちておらず、それゆえに実行が十分ではないと言える。

では、なぜ、腹に落ちる必要があるのか。それは、戦略は本質的に仮説であるからだ。仮説であるのだから、「戦略ができた、さあ、実行だ」とはならない。清水先生はこれを、「実行は戦略の後工程ではない」と表現されている。実行は、戦略の仮説を展開すると同時に、戦略立案の段階では明確にできなかったこと、あるいは間違っていたことを実際の行動の中で知り、フィードバックを通じて「戦略を練り上げる」プロセスでもあると指摘する。つまり、実行は、トップ、ミドル、現場というそれぞれ役割の違う三者がそれぞれの役割をまっとうするだけでなく、有機的に協力しあって初めて進化を発揮すると指摘する。ヘンリー・ミンツバーグ先生の創発的戦略の議論である。そして、その根底にあるものが、コミュニケーションであると指摘する。

少し脱線するが、そもそも、日本企業において、戦略実行の問題は欧米には見られない様相がある。遠藤功先生の現場力という言葉を世に知らしめた名作「現場力を鍛える」の中で、日本の現場が強いのは、戦略実行の際に、現場で戦略調整をしているかだらという指摘をされている。まさに、清水先生と同じ指摘をされているわけだ。


◆コモデティ化する戦略

この本の話に戻るが、この本ではもう一つ、非常に重要な指摘がある。それは、戦略のコモデティ化である。つまり、戦略は誰が作っても競争相手に徹底的に差をつけるものはできない。戦略が差別化要因にならない限り、戦略で競争に勝つには実行力が勝負になる。そのような業界や事業分野が増えているという。本の中ではIT業界を例に取り上げているが、確かにそうで、この10年位を見れば、サービス化とネットワーク(クラウド)化が大きな戦略だが、そんなに企業によって言っていることが違うわけでない。実行力のあるIBMなどのいくつかの企業が成果を上げているだけだ。


◆戦略が実行できないと思われている理由とウソ

さて、ではなぜ、戦略実行がうまく行かないのか。これが次のテーマである。事例を分析し、以下のような原因を上げている。

・トップの鶴の一声とあれもこれも
・時間・準備不足
・戦略が不明確
・実行と評価制度がリンクしていない
・責任が不明確
・部門間の対立
・納得性が低い
・片手間の実行
・情熱・本気度の不足

などを上げており、このような問題を引き起こしているのは、前提の間違いだという指摘をしている。たとえば、鶴の一声であれば、

前提1:トップは「思いつき」ではなく、分析に基づいて指示を出すべき
前提2:「あれもこれも」では現場を混乱するので、トップはトレードオフをはっきりさせ、優先順位の指示をだすべき

という暗黙の前提があるが、これが本当に正しいのかという問題提起だ。これについて、いくつかの視点から議論し、以下のような前提に見直すべきだと指摘している。

見直し前提:分析は戦略ではない。戦略という未来への仮説は様々な要素の非線形的な統合であり「思いつき」からしか生まれない

そのほかの問題についても、確かに一理あるが、前提が間違っているではないかと指摘する。言い換えると、上記のような問題があるから戦略が実行できないというのはスケープゴートを作っているだけだというのが清水先生の指摘である。

そして、見直された前提を採用してマネジメントを考えた場合、組織レベルでのコミュニケーションの不足に戦略実行ができない最大の原因があるという結論になる。


◆戦略実行を推進するコミュニケーション

そこで後半では、コミュニケーションとは何か、戦略実行のためのコミュニケーションはどうあるべきかを論じている。まず、コミュニケーションの目的は情報を増やすことではなく、相互理解をすることだとしている。つまり、
(1)価値観や考え方が同じ人の間では、その合意内容についてよく理解する
(2)対立する人の間ではお互いの価値観について知り、なぜ対立しているのか、どこが対立しているかを知る
(3)価値観が同じでも微妙にある違いに気づき、対立してしてもそこにある共通点を見つける
の3つを行うことがコミュニケーションだと指摘する。このようなコミュニケーションを実行するアーキテクチャーとして


レベル1:情報(ホウレンソウ)
レベル2:提案(ロジカルシンキング)
レベル3:価値観・気持ち


の3層からなるコミュニケーション・ピラミッドを使い、コミュニケーションの本質は、受け手と送り手が意味を共有することだとし、そのためにはレベル3で、お互いの考え方、価値観を理解しなくてはならないという。この考えを戦略実行に当てはめると、組織のコミュニケーションの役割は
(1)戦略の「核」となる目的について合意する
(2)合意できない戦略施策についても、100%の力を投入するための「納得」を培う
(3)実行の過程で新しく発見された情報を戦略に反映させる
の3つになると述べている。つまり、このようなコミュニケーションを行うことが、戦略を実行するカギを握っているわけだ。

戦略実行におけるコミュニケーションをこのようにとらえた場合、効率性の問題が出てくる。コミュニケーションを効率的に行うにはどうすればよいかという議論だ。この問題に対して、清水先生は

「意味を共有化する」コミュニケーションは、そんなに効率化できるものではない

と結論している。今、多くのミドルが戦略実行において、時間がないという理由で、できるだけメールでといった行動パターンを取るケースが多いが、少し、考え直してみる必要があると指摘する。


◆あなたの組織の戦略実行力は

最後に、組織の実行力を測る10の質問というのが掲載されている。掲載しておくので、芳しくないようなら、ぜひ、この本を読んでみよう。

1.あなたは、相手が話を聞かないのは自分の責任だと思っているか
2.あなたは、会社のビジョンを絵に描けるか
3.あなたは、プランにどのくらいの資源をかけているか知っているか
4.あなたは、チェックをしたつもりになっていないか
5.あなたは、制度を作ってできたと思っていないか
6.成功と失敗の二元法でさまざまなことが語られていないか
7.あなたは、和気あいあいがコミュニケーションがよいことだと思っていないか
8.根負けしたり、させられた経験を、社員が持っているか
9.あなたは、現場での発見を推奨しているか
10.あなたは、コミュニケーションに効率性ばかりを求めていないか

なお、この本を読むのに、思考の枠組みとして、清水先生の

清水 勝彦「その前提が間違いです。 」、講談社(2007)

が非常に役立つと思う。併せて読んでみてほしい。


◆プロジェクトマネジャーに向けてのメッセージ

戦略実行マネジメントを行うのはプログラムマネジメントやプロジェクトマネジメントの役割である。この本における戦略実行の問題点を読んでいると、プログラム/プロジェクトマネジメントの問題が浮き彫りになる。

プロジェクトマネジャーは現場力は好きだが、戦略という言葉が嫌う。現場力とは戦略実行力であり、清水先生、ミンツバーグ先生、遠藤先生がそれぞれの立場から指摘されているように、戦略実行力は与えられた戦略を実行するだけでなく、仮説の検証、場合によっては新しい仮説の立案まで含む能力である。ぜひ、そのような能力を身につけてほしいと思うが、その足掛かりとしてぜひ、読んでみてほしい本である。

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