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2011年4月17日 (日)

ホワイトスペース戦略(ファンが選ぶビジネス書5)

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マーク・ジョンソン(池村千秋訳)「ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ」、阪急コミュニケーションズ(2011)

お奨め度:★★★★★+α

ビジネスモデルのイノベーションを体系的にまとめた本。本書の著者と、「イノベーションのジレンマ」のクレイトン・クリステンセン教授の共著で、「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌で マッキンゼー賞(2008年)を受賞した注目の論文「Reinventing Your Business Model」の書籍化した本。イノベーションのジレンマという問題への解である書籍「イノベーションの解」を発展させ、「ホワイトスペース」に着目したビジネスモデルイノベーション論として体系化した一冊。


◆ホワイトスペースとは

ホワイトスペースという言葉はテレビや通信の電波の割り当てで、割り当てされていない周波数域を指す言葉として時々に耳にするが、マーケティングでは「まだ、開拓されていない領域や、まだ需要の満たされていない市場」という意味で用いられる。本書では、

・その企業の既存のビジネスモデルが活動の対象としていない領域

という意味であり、コアスペースと隣接スペースの外にあり、新しいビジネスモデルでないと生かせない領域だとしている。その意味で、うまくいけば飛躍的な成長につながる一方で、リスクも高く、チャレンジが徒労に終わることも多い。

ホワイトスペースに出ていく必要性は「成長ギャップ」にある。成長ギャップは、その企業に期待される成長ベースと既存のコアスペースおよび、想定される隣接スペースで実現できる成長ベースの間のギャップである。成長ギャップを埋めるためにホワイトスペースへの進出が必要になる。

たとえば、アップル社はコンピュータメーカであり、音楽やメディアはコアスペースではなかった。アップルはiPodでホワイトスペースに進出し、iTuneストアを解説、ハードとソフト、デジタル音楽をセットにして提供するという新しいビジネスモデルにより、顧客を囲い込み、成功した。


◆ビジネスモデルの4つの要素

本書では、まず、ビジネスモデルの基本モデルを示している。ビジネスモデルは互いに関連しあう4つの要素からなるというものだ。4つとは

(1)顧客価値提案
(2)利益方程式
(3)主要経営資源
(4)主要業務プロセス

の4つだ。


◆顧客価値提案

顧客価値提案は、一定の金銭的価値と引き合いに、顧客が解決すべき「ジョブ」をそれまでより有効に、あるいは確実に、便利に、安価に、重要な懸案を解決したり、課題を成し遂げたりするのを助ける商品やサービスの提供を指す。いうまでもなく、ビジネスの原動力になるものである。顧客価値提案の質は

・提案で解決されるジョブが顧客にとってどの程度重要か
・顧客が既存の選択肢にどの程度満足しているか
・ほかの選択肢と比べて、その提案がどの程度、ジョブを有効に解決できるか

の3点において決まる。成功する顧客提案は、シンプルでエレガントである。


◆利益方程式

次に利益方程式。利益方程式は企業がどのように自社と株主のための価値を作り出すかという青写真であり、

・収益モデル
・コスト構造
・商品やサービス一単位あたりの目標利益率
・経営資源の回転率

の4つの変数で構成される。たとえば、米国の小売りでは、1950年代にディスカウントストアが登場してきた。ディスカウントストアは百貨店やカタログ通販より安い価格を実現するために利益率を低く抑えることが必要で、そのために在庫回転率を高めようとした。また、販売員を減らすために店頭に並べれば自然に売れる商品を品揃えをした。

その後、アマゾンのように店舗をオンラインに持つ小売業が登場し、オンライン化によって在庫回転率を高めて利益率を引き下げても利益が上がる体制を作った。さらには、運転資金から得る利益を最大化した。


◆経営資源と主要業務プロセス

三番目は経営資源であり、顧客価値提案を実現するために必要な人材、テクノロジー、商品、施設・設備、納入業者、流通経路、賃金、ブランドが必要かである。

最後の主要業務プロセスは、持続可能、再現可能、拡張可能、管理可能な形で顧客価値提案を実現するための手段であり、

・業務プロセス
・ビジネスのルールと評価基準
・行動規範

などが含まれる。


◆ビジネスモデルイノベーション

次に、既存の市場や新たに作り出す市場で、ビジネスモデルイノベーションを行うのに適したビジネスのパターンを検討している。ビジネスモデルイノベーションに必ず、ホワイトスペースへの進出が必要だというわけではない。コアスペースのビジネスモデルの強みで、市場を一変させるような場合もある。これは、隣接スペースへの進出であり、たとえば、P&Gのファブリーズなどがその例である。

逆にホワイトスペースへの進出が必要なのは、

・既存の利益方程式で、間接費のコスト構造と経営資源の回転率を変えたい場合
・主要経営資源・業務プロセスを新たに多数導入してなくてはならない場合
・事業をおこなうために、これまでとはまったく異なるルールや規範、基準を取り入れなくてはならない場合

である。

隣接スペースに新たなビジネスチャンスが生まれるのは、その分野の競争が変わる場合である。一般的に競争の基準は

機能性→信頼性→利便性→価格

の4つの変遷があり、主としてビジネスモデルイノベーションの対象になるのは、後者の2つである。ホワイトスペースに出ていかなくても、価格のニーズに応えたり、利便性のニーズにこたえることによって、ビジネスモデルのイノベーションが可能になる。


◆ホワイトスペースの進出

次に、ホワイトスペースへの進出である。この場合、ポイントになるのは、「非消費者」を取り込むことである。そのための最初のステップは、ジョブの解決を妨げている、資金、スキル、アクセス、時間などの要因を特定し、対応していくことが必要である。

ここで注目すべきは、問題への理解が深まれば(民主化されれば)、問題解決方法が変わる場合があることだ。知識がない段階では、推測に依存する。知識が増えてくると、パターンや法則で解決策を見出そうとする。このような問題解決策の変化が、ホワイトスペースでの新しいビジネスチャンスになることが多い。

本書では、女性の妊娠判定の例を挙げている。古代エジプトでは、小麦と大麦に女性の尿をかけて発芽すればその女性が妊娠していると考えた。根拠のない推測である。1927年に女性の尿をウサギに注射するとウサギの卵巣に「血体」ができること多いことが発見された。これによって、問題解決のプロセスが進歩した。しかし、判定のためにウサギを殺さなくてはならないという問題が残った。その後、医療が進歩し、「血体」の原因がヒト繊毛性ゴナドトロピンというホルモンであることが分かり、このホルモンが体内にあるかどうかを判定する血液検査という方法が開発された。

このように問題解決が変わる中で、それぞれに適したビジネスモデルの類型がある。非体系的な段階と、パターン適用の初期には、「ソリューション工房型」が適している。知識が増え、法則に基づく問題解決が行えるようになると、「バリュー付加プロセス型」のビジネスモデルが適してくる。そして、さらにしてくると、顧客同士が直接かかわりモノやサービスの交換をする「ネットワーク促進型」のビジネスモデルが適してくる。


◆変化の合間

以上のふたつ以外に、変化の合間にビジネスモデルイノベーションが避けて通れないケースがある。その要因は

・市場の需要に予測不能はあるいは劇的な変化が起きる
・テクノロジーに予測不能な変化が起きる
・ビジネス環境に関する政府の政策に、劇的な変化が起きる

の3つがある。


◆ビジネスモデルのデザインと導入

さて、では、ホワイトスペースで成功するためのビジネスモデルの導入をどのようにすればよいのか。著者は3つのステップを提案している。

(1)未解決の重要なジョブを抱える顧客のニーズを満足させる方法を考える
(2)顧客のジョブを解決しながら利益を上げる方法の青写真を描く
(3)ビジネスモデルの導入

(1)では、顧客中心主義をどのように展開していくかという視点から議論している。特に、機能的ジョブだけではなく、情緒的ジョブと、社会的ジョブの重要性について説いている。

(2)ではビジネスモデルの4つの要素をどのように考えていくかという視点から詳細に説明されている。

さらに(3)については、ビジネスモデルの導入を、育成期、加速期、移行期の3フェーズに分け、それぞれのフェーズで何をすべきかを具体的に説明している。

僕が本を読んだり、紹介するときに、主に意識するのはコンサルティングのクライアントや、メルマガの読者などにどのように役立つかということである。その中で、年間に4~5冊は自分の仕事に役立つ本がある。この本は非常に参考になった。

 

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