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2010年1月29日 (金)

目から鱗のサービスマネジメント~顧客満足を向上させたければこの本を読め!

4478006679 諏訪 良武(北城 恪太郎監修)「顧客はサービスを買っている―顧客満足向上の鍵を握る事前期待のマネジメント」、ダイヤモンド社(2009)

お奨め度:★★★★1/2

近藤 隆雄先生の「サービスマネジメント入門―物づくりから価値づくりへの移行」(1995)が出版されてから15年経つ。この本は、その後、改訂、改版され、2007年に

4820118773 近藤 隆雄 「サービスマネジメント入門第3版―ものづくりから価値づくりの視点へ」、生産性出版 (2007)

が出版されている。この間、サービス業のGDPは70%以上を超え、いろいろな問題を抱えているが、体系的に勉強できる本は近藤先生の本だけだった。そこに、「大物新人がやってきた」みたいな雰囲気で、この本が出てきた。

この本はサービスのマネジメントを、事前期待に着眼し、体系的に行おうという本である。教科書的な作りになっており、最初の数章はサービスとは何か、サービスをどのような軸で分類するか、サービスをどのように分解するか、サービスをどのようにモデル化するか、そしてサービスを扱う理論はどのようなものがあるかを解説している。

これらの中には、近藤先生をはじめとする、先達の知識に近いものもあるし、著者独自のものもある。この部分については、いくつかは「おっ」というものもあるが、基本はしっかりと押さえましたという感じの書き方になっている。サービスマネジメントを最初に学ぶ本としては取っつきやすい。そのあとで、近藤先生の本も読むとよいだろう。

この本の付加価値は、6章以降の事前期待のマネジメントにある。確かにそのとおりで、目から鱗が落ちるような話だった。まず、ここで著者のサービスの定義がされている。

人や構造物が発揮する機能で、ユーザーの事前期待に適合するものをサービスという

というものだ。事前期待がキーワードになっており、事前期待に適合しないものは、サービスではなく、余計なお世話だということだ。そして、ユーザーの事前期待は

(1)事前期待の内容
(2)事前期待の持ち方
(3)ユーザーの属性
(4)ユーザーのサービスへの関わり方

の4つの要素に分解できる。そして、事前期待の内容は

・サービスメニュー
・サービス品質

から構成される。また、事前期待の持ち方は

・共通的な事前期待
・個別的な事前期待
・状況で変化する事前期待
・潜在的な事前期待

に分類でき、これがサービスに満足できるかどうかのカギを握っている。

事前期待を考える意味は、顧客満足を実績だけで考えないことである。事前期待と実績の間には、

事前期待>実績 → リピート
事前期待<実績 → 顧客を失う
事前期待=実績 → 競合がなければリピート

という関係がある。特に重要なことは、顧客満足に絶対値が存在しないということだ。従って、顧客満足を高めるには、事前期待で顧客をセグメント化し、セグメントの特性に合った対応をしていく必要がある。

ところが、事前期待にはやっかいな一面がある。それは、顧客の事前期待は時間とともに高まっていく増加関数であることだ。良いサービスを提供すればするほど、事前期待は高まる。それに負けないようにサービスの質を上げていく必要が出てくるわけだ。非常にすばらしいサービスを提供するベンダーが、「昔はこの会社のサービスはよかったんだが、、、」と言われるのはこのためだ。つまり、守りの姿勢だけでは、顧客満足を維持し続けることはできない。

ただし、この問題は正面から受け止めるのは難しい。顧客の事前期待は青天井になるからだ。そこで、サービスの改善にとりくみながらも、事前期待のマネジメントを行っていく必要がある。事前期待のマネジメントができると、企業の競争力は格段に向上する。

事前期待のマネジメントの方向は、一般的には取引として妥当なレベルに持っていくことだが、例外的には、競合が達成できないようなハイレベルに誘導することもあり得る前者の例としては、

・コールセンターで毎回お客様と契約条件を確認し、膨らんだ期待を冷やす
・新しいお客様に「最初はいろいろと問題が起こると思います」と言っておく

といったものが考えられる。後者の例としては、

・ウェブで保守サービスの進捗を公開し、お客様のいらいらを解消する

といったものが上げられる。サービスのレベルをマネジメントする際に、トータルCSという考え方があることを覚えておくとよい。個別の対応に対してサービスのレベルを考えるのではなく、トータルで考える。たとえば、コールセンターで、顧客1名あたりの対応時間が15分だったとする。このとき、1名の顧客の対応が長引いて1時間を費やし、完璧な満足を与えても、1である。そこでその顧客の対応は0.5の満足が得られていれば15分で止めてしまい、他の顧客に対応すれば、3.5になる可能性がある。これがトータルCSという考え方だ。

さらに事前価値のマネジメントとして、サービスの価値そのものを上げることを考える必要もある。その要素としては、

・ワンストップ性を高める
・サービス品質を高める
・ホスピタリティを高める
・サービスの効率を高める
・プライドを満たす

といったものが考えられる。いくら、事前価値をマネジメントしても、サービスの価値を高めることができないと、いずれは低価格競争に巻き込まれ、利益がでなくなってしまう。その意味で価値を高めることは極めて重要だ。

最後に、サービスのイノベーションについて述べられている。その中で、極めて興味深い事例が紹介されている。著者の所属していたオムロンフィールドエンジアリングで、著者が改革担当として着任したときに、社内のマネジャーのほとんどは、「若い社員のスキルレベルの問題でお客様に迷惑をかけている」といっていたそうだ。経営も同じ認識。そこで、著者はコンサルティング会社に調査を依頼したところ、顧客からはコール受け付けやエンジニアのスキルは不満足という声はなく、マネジャーの「進捗管理」に問題があったという。また、対応スピードに対しても遅い、約束通りの時間に来ないといった問題の指摘があった。つまり、マネジメントの問題だったのだ。

サービスは現場密着の活動であり、問題があれば、すぐに批判の矛先が現場に行く。しかし、僕の経験からも意外とマネジメントの問題があることが多い。このあたりをきちんと分析していかないとイノベーションはままならない。

このように本書は、サービスに対して、事前期待に注目して、体系的にマネジメントによる顧客満足の改善の方法論を示している。非常に実践的である。ただし、書き方は平易であり、エピソードも多く紹介されており、一見、取っつきやすいが、本質的にはビジネス書というより実践性の高い専門書である。従って、ぱっと腑に落ちるとは限らない。何度も読み直さないと、本当に意図することがわかりにくい部分が結構あるように思う。

しかし、その困難を超えると非常の良質の知識が入手できる。その意味で、大変、よい本である。

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