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2009年6月28日 (日)

ブルーオーシャンの手本とされる経営の本質

4532314631 井上 理「任天堂 “驚き”を生む方程式」、日本経済新聞出版社(2009)

お奨め度:★★★★1/2

今や、日本企業の中ではトヨタやソニーと並んで関心を持たれているにもかかわらず、そのマネジメントが秘密に包まれている任天堂を、取材とデータ、洞察から描いた力作ノンフィクション。

任天堂は、チャン・キム博士がブルーオーシャン戦略を実践している企業として名指しして以来、商品だけではなく、そのマネジメントに興味も持たれるようになってきた。しかし、取材に対するガードは堅いらしく、なかなか、なぜ、ブルーオーシャン戦略をとることができたかを説明するような資料にはお目にかかれなかった。

チャン・キム、レネ・モボルニュ(有賀 裕子訳)「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」、ランダムハウス講談社(2005)

本書では、記述は現在の社長の岩田聡氏を中心に書かれている。話は2004年、その後、史上最速で1億台を売ったゲーム機、DSの発売日の日に始まる。この日、社長の岩田は販売の現場ではなく、東北大学にいた。これまた、シリーズ3千万本を売った「脳トレ」シリーズを満足な完成度にさせるために、開発者の川島教授のもとにいた。社長自身が、ゲーム開発の陣頭指揮を執る。このエピソードが任天堂の経営体質をよく語っている。ソフト重視、そして、満足できないソフトは出さない。徹底的に追求する。これが、任天堂「らしさ」である。

この本は、これを基調として、岩田社長、そして、伝説の開発者であり、伝説のプロデューサーでもある宮本茂氏が如何に任天堂らしさを発展させてきたかを、DSとWiiにおける開発やサポート活動を中心に見事に描き出している。

そして、Wiiで注目されたブルーオーシャンの原点である、伝説の電子ゲーム開発者横井軍平氏の話に戻る。有名な「枯れた技術の水平思考」という方法論を開発した張本人である。ある意味で、Wiiは横井氏の存在なしではできなかったといえる。横井氏は、80年代のベストセラーゲーム、ゲームウオッチを開発した人物である。

横井氏の話はたいへん、興味深い。競合はどんどん、ハイテク化していく中で、必要なことはハイテクではなく、娯楽とは枯れた技術を上手に使って「人を驚かす」ことだという。美しい画像で人を驚かすというアプローチもある。実際に、プレステ2などでは、本当に驚くというレベルの進化だったように思う。

しかし、任天堂はあくまでも、「枯れた技術」にこだわる。そこには、岩田氏の前の社長の山内溥氏の考えるソフト重視がある。山内氏はカリスマ経営者で、いろいろなことを直感で判断することにたけていた。そして、人材の選定に当たって、もっとも重視したのが、「ソフト体質」であったという。実際に、任天堂の歴史は、ソフトを重視したときには好転し、ハードにこだわったときには失敗した。悪名高い任天堂のゲームベンダーに対するソフトウェア政策もこのような考え方の上にあり、それが、ベンダーとの共存共栄の道と考えたのだろう。

このように現在の岩田氏から徐々に歴史をさかのぼり、任天堂の全像を描いた編集は見事だ。ずっと読んでいって、この山内氏の「ソフト体質」の話でほぼ、全部が腑に落ちる。経営であるので、瞬間風速でみれば逆風もある。現に、任天堂もソニーとの戦いで劣勢だった時代は非常に経営に苦労している。

しかし、全体として成長の包絡線が描き出してみるものは、ソフト体質である。とくに、電子分野においては、ハードが先行している。従って、ソフトとハードのバランスのよい戦略のためには、ソフトを重視する、あるいは、ソフト体質であることがよい結果をもたらす。

この本でも触れられているが、任天堂と同じスタンスで成功している企業がアップルである。アップルはソフトを「デザイン」という言葉で捉えている。これは興味深い。ハード主導で進んでいる、少なくともこの本ではそのような位置づけをされているソニーの中核もデザインなのだ。

山内氏のいうソフト体質とはデザイン重視の体質ではないかと思う。すると、ソフトの任天堂、ハードのソニーといった単純な構図ではないことがわかる。現在、Wiiが一人勝ちのような印象があるが、アナリストによると、まだまだ、わからないという。マイクロソフトやアップルも含めて、この分野の最後の勝者になるのはデザインだと思う。

それが枯れた技術なのか、先端技術なのか、まだまだ、目が離せない状況にある。そんなことをこの本を読んで感じた。

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