ジェームズ・モーガン (著), ジェフリー・ライカー(稲垣公夫訳)「トヨタ製品開発システム」、日経BP社(2007)
お奨め度:★★★★1/2
トヨタウエイの著者 ジェフリー・ライカーによるトヨタの製品開発システムのエスノグラフィ。日米の研究開発拠点12箇所で40人の開発担当者から延べ1000時間に及ぶ聞き取り調査を実施して書き上げた本。
トヨタウエイについてはこちらの記事を参照。
トヨタウエイの実践
トヨタといえば現場とよい意味で泥臭い改善活動の印象がつよい。しかし、マネジメントの研究者のレベルでは、むしろ、製品開発システムに関心が高かった。東京大学の藤本先生、神戸大学の延岡先生をはじめとし、多くの経営学の研究者がトヨタのシステムを研究し、論文を書いている。実際のところ、初代イプサムに代表されるリードタイムの大幅な短縮など、興味深い点は多い。
それらの本と比べるとこのライカーの本は実務者にとって参考になる。あまり、大きな仮説を設定せずに、エスノグラフィーとして淡々と調査、観察したことが書かれており、本当のところの実態がよくわかる。
チーフエンジニア制度、セットベースのコンカレント・エンジニアリング、平準化プロセスなど、トヨタ独自のシステムが丁寧に解説されているので、読んでいて、上記の論文ではわからないことがわかる部分がずいぶんある。特に興味深いのはこれらの制度の背景にあるルールを以下のような原則としてまとめていることである。
プロセスのサブシステム:リーン製品開発システム原則の1~4
原則1 付加価値とムダを分離できるように、顧客定義価値を設定する
原則2 選択肢を十分に検討するため、製品開発プロセスを設計上の自由度が一番高い初期段階にフロントローディングする
原則3 平準化された製品開発プロセスの流れをつくる
原則4 厳格な標準化を使ってばらつきを減らし、フレキシビリティーと予測通りの結果を生む
人のサブシステム:リーン製品開発原則の5~10
原則5 開発を最初から最後までまとめるチーフエンジニア制度をつくる
原則6 機能別専門能力と機能間統合をバランスさせる組織を採用する
原則7 すべての技術者が突出した技術能力を持つようにする
原則8 部品メーカーを完全に製品開発システムに組み込む
原則9 学習と継続的改善を組み込む
原則10 卓越性とあくなき改善を支援するカルチャーを醸成する
ツールと技術のサブシステム:リーン製品開発システム原則の11~13
原則11 技術を人やプロセスに適合させる
原則12 組織全体の意識をシンプルで視覚的なコミュニケーションで合わせる
原則13 標準化と組織的学習に強力なツールを使う
ただし、このようなトヨタ方式が有効かどうかを判断するのは読者である。これが有効であるという証拠、論拠はない。唯一あるのは、もうすぐ、世界一の自動車メーカになるだろうということだけだ。
逆にいえば、別の業界の人(たとえば、製薬)がベストプラクティスとして読んでも訳に立つ内容ではないかと思う。
それから、いくつかの開発ケースが採録されている。これらは読み物としても面白い。
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