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2006年9月

2006年9月30日 (土)

アメーバ経営の精神

453231295701 稲盛和夫「アメーバ経営―ひとりひとりの社員が主役」、日本経済新聞社(2006)

お奨め度:★★★★1/2

アメーバ経営というのは京セラが考案した、トヨタのカンバンにならぶ日本企業が生んだ独創的なマネジメント手法だと思うのだが、トヨタ方式ほど著名ではない。特に、稲盛会長の知名度を考えると不思議だ。

おそらくその理由は管理会計の手法であって、普段、あまり興味をもたれない部分だからだと思われる。しかし、同じような考え方のボルボ方式と較べてみても、アメーバの方が進んでいる。これから注目される手法かもしれない。

特に、アメーバ経営というのは京都のものの考え方のDNAが入っていると思うので、その意味でも今後の発展を期待している。

この本は、稲盛氏自身が筆を取り、ひとりひとりが主役であるというアメーバ経営の基本になっている考え方を分かりやすく解説している。小集団部門採算、高自由度組織、時間割採算表などが、どのような意味を持って考案されているかをきちんと説明してあり、アメーバ経営の素晴らしさがひしひしと伝わってくる一冊である。

アメーバ経営は、プログラムマネジメントと同じ基本概念を持っている。そのような目で読んで見ると、この本で稲盛氏が述べていることはプログラムマネジメントのポイントでもある。この点でも興味深い一冊である。

なお、アメーバ経営についてテクニカルなことを知りたい向きには、以下の本がお奨めだ。

449253162909 三矢裕「アメーバ経営論―ミニ・プロフィットセンターのメカニズムと導入」、東洋経済新報社(2003)

大学の研究者がキャリア初期に書いた本であるので、多少読みづらいが内容はしっかりとしている。

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なぜ、そのプロジェクトをやめれないのか

439668115101 福田秀人「見切る! 強いリーダーの決断力」、祥伝社(2006)

お奨め度:★★★★

プロジェクトを中断するのは難しいとよく言われる。この本は、中断できないパターンを分類し、どうしてそのようなパターンに陥るかを分析している。パターンのネーミングが非常にユニークで、

〈カレンダーの論理〉
〈面子第一人間〉
〈弱者連合〉
〈コンコルドの論理〉
〈執念至上主義〉
〈完売主義〉
〈最後の10%〉
〈パーキンソンの法則〉
〈成功体験〉
〈仲良しサークル化〉
〈プラス発想〉
〈資金の過小投入〉
〈成長至上主義〉
〈営業第一主義〉
〈計画至上主義〉

などである。すべてのパターンについて事例分析の形式になっているので、自分の状況に置き換えて考えてみることもできる。

例えば、最初の〈カレンダーの論理〉はPR効果の少ないカレンダーの配布をやめられないというパターン。「取引先から経営状況が悪いのではないかと思われ、信用を失う」、「カレンダーを委託してきた業者が気を悪くする」といった「やめられない理由」を並べる。そして、

効果のほどがはっきりしない以上、続けるしかない

という結論に落ち着く。あなたも身に覚えがあるだろう。プロジェクトをやめるといった大きな話ではなく、スコープ削減の議論でこのような論理がまかり通り、不要な機能を膨大に持つ商品が生まれる。こんなパターンだ。

楽しく読める。ぜひ、読んでみてほしい。

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強い会社はボトムで設ける

453231293001 綱島邦夫「社員力革命―人を創る、人を生かす、人に任す」、日経新聞社(2006)

お奨め度:★★★★1/2

この5年くらいの間に日本企業のイメージはずいぶん変わったのではないかと思う。日本企業の強みは社員の質にあった。その分、マネジメントがおろそかになっていた企業が多い。

この5年間の本格的なバブルの負の資産の解消の際にこれがはっきりあわられたように思う。この本で書かれていること、ベストプラクティスは少なくともバブルの前までは多くの企業にあったように思う。しかし、この5年のリストラクチャリングを乗り越えた企業は少なく、この本で取り上げられている、トヨタ、武田薬品、松下電器などはいずれもマネジメント力をテコに、人材の強みを残しながら、リストラクチャリングに成功した企業である。人を作るトヨタ、人に任す武田、人を生かす松下である。

著者の綱島邦夫氏はマーサーの方だからかもしれないが、分析のフレームワークがラーニングオーガニゼーションになっている。日本には、自らを説明するフレームワークがない。特にこの3社のようにグローバル化に対応できる組織を展開するためのフレームワークがないのは非常に残念だ。ただ、この本の事例から分かるように、実践している企業は多い。

なんにしても、社員、プロジェクトといったボトムが強くないと儲からないというこの本の主張には強く共感する。

良い本である。

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ドラッカーは永遠に不滅です!

ドラッカー先生が他界されてそろそろ1年になろうとしている。すでに生前から神様みたいな存在だったからか、その影響力は変わることはない。やはり、圧倒的にいろいろな会話の中によく出てくる。もちろん、僕もメルマガ等でも引き合いに出すことが多い。

さて、そういうタイミングを見計らったわけでもないと思うが、最近、ドラッカーファンには見逃せない本が2冊出版された。

447830702401 一冊目はこれ

P.F. ドラッカー編著「P.F. ドラッカー経営論」、ダイヤモンド社(2006)

ドラッカーといえば50冊以上の著作(オリジナル)がある。各国で出されている編著などを入れると、500冊を超えるといわれている。日本でも50冊以上ある。

その原点になっているのが、ハーバードビジネスレビューへの投稿だ。1950年に初めて寄稿した「経営者の使命」から最後の寄稿となった2004年の「プロフェッショナル・マネジャーの行動原理」まで34本の論文の投稿がある。この数も半端ではない。

これをすべて採録した待望の本がこの本。ちょっと高いがファンなら絶対に持っておきたい一冊。ちなみに、ハーバードビジネスレビューというと堅い論文誌のようなイメージがあるかもしれないが、ドラッカーの著作に関して言えば、後で本になるものよりは理解しやすい。ハーバードビジネスレビューが「たね」でそこから相当な哲学的考察を加えて本を作っているのではないかと思わすような感じだ。

その意味で、まず、この本で論文を読み、その後、書籍を読むのがよいと思う。

さて、もう一冊は、ドラッカーとは切っても切れない関係にある、上田惇生さんの一冊。その名もドラッカー入門。ご存知の通り、日本語で出版されているドラッカーの本はほとんど、上田惇生さんの翻訳によるもの。日本でもっともドラッカーを知り尽くした人だといえる。

その上田惇生さんは、どきどき、訳者前書きや、あとがきでご自身のドラッカー観を披露されているが、これまであまり、まとまった形では書かれていない。やっと出てきたかという一冊。

447830703201上田惇生「ドラッカー入門―万人のための帝王学を求めて」、ダイヤモンド社(2006)

この本もドラッカーファンにとっては、非常にうれしい一冊だ。もちろん、ドラッカーの理論に含まれる含蓄を易しく上田さん自身の言葉で解説されており、その意味で、ドラッカーの教えを実戦で活用したいと思っている人には見逃せない一冊だ。

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企業統合で学ぶプログラムマネジメント

482226206501 金巻龍一、河合隆信、丸山洋、IBMビジネスコンサルティングサービス「企業統合―あるPCメーカー、成功の舞台裏」、日経BP社(2006)

お奨め度:★★★★1/2

PCメーカがM&Aを行い、契約完了後に、プログラムマネジメントを行うことにより、スピーディーに事業統合をする様子をストーリー形式で書いている。M&Aのストーリーとして読んでも面白いのだが、プログラムマネジメントのストーリーとして読んでみると、非常に学ぶところが多い。

プログラムマネジメントは単に単純なコンカレントだと思われている節もあるが、違う。プログラムマネジメントは、組織間の調整、プロジェクト間の調整にマネジメントフォーカスすることによって、調整要素の多い複雑な仕事をスピーディーに進める手法である。この本を読むと、M&Aのマネジメントプロセスを通してそのことがよく分かる。

実話に基づいているらしいが、これだけスムーズに進めていくには、相当なプロジェクトマネジメントの組織コンピテンシーが必要だろう。そこが逆にIBMの実話を読んでも、あまり参考にならない(つまり、IBMはもともとコンピテンシーが高い)ような気がしないでもない。その点が、読了後にこんなにM&Aがうまく行くのかとふと疑問を持った源泉かもしれない。

2006年9月29日 (金)

プログラムマネジメントカテゴリ設定

プログラムマネジメントというカテゴリーを作りました。

力を入れようと思っています。ときどき、見てください。

https://mat.lekumo.biz/books/cat514754/index.html

プログラムマネジメントに興味を持つ人の必読書!

482224541109 桑嶋健一「不確実性のマネジメント 新薬創出のR&Dの「解」 」、日経BP社(2006)

お奨め度:★★★★

新薬開発の分野はプロジェクトマネジメントに対する関心が高いが、その理由がよく分かる本である。著者は大学の先生だが、よくフィールドワークをしていて、分析、提言とも実践的であり、実務家に有益である。

この本では、製薬会社の競争優位源泉を「go ro no-goの判断」だという仮説を設定し、武田薬品をはじめとする数社のベストプラクティスの調査をし、その仮説検証をしている。この分析の過程で判明したベストプラクティスはまさにプログラムマネジメントのベストプラクティスである。プログラムの中でポートフォリオを使って不確実性への対処をするという発想は、P2Mなどで提案されている手法である。

第4章の産業間の比較も非常に興味深い。問題解決モデルを作って、新薬開発のプラクティスで実施されていることを分析していいる。非常に合理的なプロセスになっていることが分かる。研究所としてみた場合には、(少なくともこの本にある書かれている範囲では)強引な結論を出しているという感じがするが、全体としては説得力があり、プログラムマネジメントの実践を知る上では、非常によい本である。

その意味で、製薬業界の方はもちろんだが、いろいろな業界の人が読む価値のある一冊である。

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2006年9月28日 (木)

ビジネス書の杜アンケート結果のまとめ(1)

88名の方に回答いただきました。本当にありがとうございました。参考に、より皆様のお役に立つものにしていきたいと思います。

遅くなりましたが、とりあえず、結果を整理しました。ご参考ください。感想も書いてあります。

(1)ビジネス書の杜 使用頻度
毎日       5%
2~3日に1回  15%
1週間に1回   23%
1ヶ月に1回   5%
不定期      38%
使用経験なし   14%

【好川の感想】
不定期という方が多いよいです。ただ、毎日、3日に1回という方が20%いらっしゃって感動です!

(2)よく見るカテゴリー
PM、PMO、製品開発マネジメント  38%
仕事術、思考法            20%
技術経営、エンジニアリングマネジメント、イノベーション 1%
リーダーシップ、チームマネジメント、コミュニケーションマネジメント  23%
マネジメント、経営戦略   11%
ヒューマンソフトマネジメントスキル 1%
組織マネジメント、コンピテンシーマネジメント4%
キャリアマネジメント、プロフェッショナル1%

【好川の感想】
プロジェクトマネジメント関係(PM、PMO、製品開発マネジメント)が多いのは、はやり、メルマガと連動しているからでしょう。リーダーシップ、チームマネジメントが多いのが特長か。

(3)増やしてほしいカテゴリー
PM、PMO、製品開発マネジメント 14%
仕事術、思考法 18%
技術経営、エンジニアリングマネジメント、イノベーション 4%
リーダーシップ、チームマネジメント、コミュニケーションマネジメン ト28%
マネジメント、経営戦略 14%
ヒューマンソフトマネジメントスキル 8%
組織マネジメント、コンピテンシーマネジメント 8%
キャリアマネジメント、プロフェッショナル 4%
その他 4%

【好川の感想】
プロジェクトマネジメント関係はそれなりに充足されているようです。リーダーシップ関係の本を増やすのが課題ですね。ただ、リーダーシップはともかく、チームマネジメントの本は少なく、コミュニケーションマネジメントに関してはほとんどないに等しいので、どう対応するか、悩ましいです。はい、、、

ちなみにクロス分析もしているのですが、リーダーシップを一番ほしがっているのは、実は、プロジェクトマネジメントをよく見る人が多いです。プロジェクトマネジャーはあまりリーダーシップに興味を持たないという印象があるのですが、少し、見方が変わりました。はい。

2006年9月12日 (火)

ストレッチした目標を達成するための超実践的方法論

452605689801 近江堅一、寺田哲郎「製造業の高レベル目標管理法―トヨタに学びたければトヨタを忘れろ」、日刊工業新聞社(2006)

お奨め度:★★★★

著者らが実践してきた「O式」と呼ぶパフォーマンスマネジメントの実践活動について述べた本。

「O式」とは、挑戦目標設定・必達法の略で、

 マネジャーが高い目標を設定し、ユニークな施策で目標を必達させる実践活動

である。

著者たちの指摘は極めてユニーク。経営改善の目標に、一般社員が日常管理で行うような低いレベルの目標しか設定していないのは損失だという問題意識で、どのようにそれを実現するかを示している。

「O式」の構成要素は

・管理者の自覚

・挑戦目標

・挑戦目標を達成するためのユニークな施策の出し方

・時間創出法

・基礎資料の作成

・実施計画の作成

で、それぞれに、著者たちのユニークな発想が詰まっている。それをすべて解説した一冊。

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2006年9月11日 (月)

ぴったりサイズのプロジェクトマネジメント

479811080901 カーティス・R・クック(中西全二訳)「実務で役立つプロジェクトマネジメント」、翔泳社(2006)

お奨め度:★★★

Just Enough Project Management: The Indispensable Four-Step Process for Managing Any Project Better, Faster, Cheaper

の翻訳書。

007144540401 タイトルの通り、プロジェクトマネジメントの最低限の知識を解説した本。ただし、その範囲でのテンプレートやチェックリストが掲載されている。また、シングルプロジェクトだけではなく、マルチプロジェクトマネジメントにも言及されており、入門書というより、最も「手抜きなプロジェクトマネジメント実践書」といった感じ。

中嶋さんがオビに

ベテランの方の知識、経験の総整理に最適

と書かれているが、この使い方が最も有効な本だと思う。初心者向けになっているが、初心者がこの本を使いこなすのは難しいと思う。

おそらく、初心者がこのようなことをやろうとすると、なぜ、それだけしかしないのかと聞かれたときに答えられないし、ちょっと考える人なら本当にこれだけでよいかと不安になると思う。体験的にプロジェクトマネジメントの本質を知っている人向き。

その意味で、★★★としているが、経験のある人が読む本として限定すれば、★★★★。

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